『依代ノ形』は、誰かの記憶や声を宿すためだけに置かれた名もない形代が、重なった記憶の隙間から自分自身を見つけていく物語を描いた和ロックです。
白い紙、墨、折り目、鈴、祭壇の火といった儀式的なモチーフを使いながら、最後には「誰かになる器」から離れ、まだ名前のない余白を自分のものとして残すところまでを描いています。
歌詞
白い紙に 墨を引く
目も口もない 人の形
一つ鈴が 夜を開く
祭壇の火が 細くなる
指を離れた その時から
名前もなく ここに置かれた
鈴が鳴る
また 誰かになる
知らない昨日が
墨に滲む
紙の身体へ
声が棲みつく
息などないのに
なぜ
僕を呼ぶ
「ただいま」だけが 残っている
帰る家など 知らないのに
濡れた袖と 夕暮れの色
見てもいないのに 懐かしい
笑い声まで 折り重なり
紙の皺へと 入り込んだ
誰かの春を 写すたび
白かった場所が 減っていく
これは誰の 寂しさだ
これは誰の ぬくもりだ
問いかけるたび
折り目の裏で
知らない僕が
目をひらく
鈴が鳴る
また 誰かになる
知らない季節が
墨に滲む
神でもない
人でもない
重なる声の
その隙間から
僕だけが
まだ 名を持たない
帰りたい
忘れたい
会いたかった
……
誰を?
器は 何も持たぬもの
なら
この震えは
どこから来た
火を寄せたら
墨が泣いた
水へ向けたら
名前が浮いた
ひとつも僕の
名じゃなかった
それなのに
紙の端が
風に逆らった
呼ばれていない
それでも
まだ
ここにある
鈴は鳴らない
もう 誰にもならない
借りた昨日が
胸をめぐる
破れた紙も
滲んだ墨も
捨てずにそのまま
朝へさらす
神でもない
人でもない
名前も未だ
書かれていない
祭壇を離れ
風に揺れながら
白い余白を
ひとつ残した
誰かを写すためじゃない
次の一文字を
まだ
知らないだけ
朝の風が
紙肌を
そっと捲った



